*

暗闇

公開日: : おもうこと, ショート連載

 

暗闇

■知っている暗闇

 

 

 

目を覚ました。

 

 

今日も目が眩むほどの暗闇だ。

 

 

思えば、一体どれだけの時間……いや、期間……日数……月数……

 

 

年数、……かな。

 

 

とにかくそれらがどれだけ経過したのか。

 

 

そのなにもない黒の世界ではその感覚ですら曖昧だ。

 

 

暗闇の中では目が次第に闇に慣れ、なんとなくぼんやりとなにかが見えるというが、俺から言わせればそれは嘘以外のなんでもない。

 

 

上質でも下等でもない、ただの嘘。

 

 

なんとバカバカしいことか。

 

 

だが、一番バカバカしいのはこのバカバカしい暗闇に囚われている私自身だといっていい。

 

 

この音も光もない闇で、このように思考を巡らせているだけ私はまだ救われているほうだろう。

 

 

そうでなければ、とっくに狂っている。

 

 

自らの体のどこかを破壊し、死んでいるだろうからだ。

 

 

 

■思考

 

 

 

自分の身体のどの部分なら破壊できるだろう。

 

 

まず、内蔵関係は絶望的だ。

 

 

素手で皮膚を破ることなど私の力でできるはずもないし、恐らくは自らはらわたを引き摺り出すなど、想像に耐えないほどの苦痛であろう。

 

 

そうなれば目や鼻、耳などの部分になるがこれらが致命傷となるはずない。

 

 

ただいたずらに部位を失い、半永久的な痛みを得るだけだ。

 

 

誤解なきように補足しておくが、別に私は痛みや苦しみが好きなわけではない

 

 

ただこの暗闇の地獄から救われたいだけなのだ。

 

 

その救済措置というのが、私の思う限りでは『死』に他ならない。

 

 

暗闇に囚われ続けるのであれば死んで、解放されるしかない。誰も助けてくれないのなら、自ら脱出するしかない。この地獄から

 

 

さて、人体破壊の話に戻るが、どこを破壊しよう。

 

 

破壊破壊というが、自死の手段が今のところそれしかないというのを理解していただきたい。

 

 

素手でなにも持たない私が、どのようにして自死できるか。

 

 

どのようにどこを壊して死ねるか。

 

 

当面はこれが目下の目標となりそうだ。

 

 

 

■破壊候補

 

 

 

内蔵が駄目。目や耳などの虚弱部位も駄目となると、他にはどこがあるだろうか。

 

 

私は男なので男性器を引きちぎるという手段もあるが、これも目や耳などと同じ効果しか得られないであろう。

 

 

では、口。

 

 

口……、そう舌はどうか。

 

 

よく「舌を噛んで死ぬ」とあるではないか。舌を噛み切るだけで死ねるのであれば儲けものだ。

 

 

……だがちょっと待て、ドラマや映画などではよく見る自死方法であるが、実際はほとんど死ねないケースが多いらしい。

 

 

これについては、世間的に『舌を噛み切って死ぬ方法』での死因が『出血多量』だと思われている。

 

 

これが間違いなのだ。

 

 

事実は違う。舌を噛み切っての死因は、出血多量などではなく『窒息死』なのだ。

 

 

舌は筋肉でできていて、噛み切ることで凝縮する。それが喉に詰まって死ねるというのだ。

 

 

だがこれは少しでも隙間があれば窒息しない上に、失敗してしまった時のリスクがやはり高い。

 

 

ということは、この方法も自死には向かないと言っていい。

 

 

 

■死について

 

 

 

結論、どのような方法を取ったところで「確実で安楽的に死ねる死」は存在しないのだということに辿り着く。

 

 

私は暗闇の中でまた絶望した。

 

 

この暗闇は私に孤独以外のものをもたらした。

 

 

思考である。

 

 

ただ思考し続けることである。

 

 

逆に言えば、それしかすることがない。

 

 

思考だけが私を正気に保ち恐らくはこの先もそうなのであろう。

 

 

では、なぜ死ななければならなのか?

 

 

私はまたそこに戻ってきた。

 

 

死が救いであると信じたが、思考を持つ今こそが至高ではないのか。

 

 

そもそも死と言う定義はどこにある。

 

 

目を閉じたまま開けないことを死と言うのなら、今の私は死しているのとどう違うのだろう。

 

 

もしかしたら、私はもう死んでいる?

 

 

そうだとしたら、すべてに説明がつく。

 

 

……ちょっと待て。

 

 

やはりそれは困る。

 

 

 

■死んでいるか否か

 

 

私がすでに死んでいるとして、この暗闇が死後の世界だとするのなら。

 

 

私は永劫にこのままだと立証されるではないか。

 

 

狂うこともできずにここに居続ける狂った私が求めた唯一の【終わり】

 

 

それが死だったはずだ。

 

 

この暗闇が終わる唯一の方法……。

 

 

死が今なら、今が死であるのならそれこそ私は……。

 

 

――恐怖。

 

 

私は、恐怖を感じた。

 

 

このままこの暗闇の中でただ思考を続ける日々がずっとずっと永遠に続く。

 

 

それを思った時の恐怖は口にしがたいものであった。

 

 

思えば、声も出ない。

 

 

手を伸ばしても本当に伸ばしているのか分からない。

 

 

息をしているのかも、生きているのかも。

 

 

私は死んでいる?

 

 

死んでいるのか?

 

 

そうだとするなら、狂うことも出来ないのではないか。

 

 

 

 

 

 

私がそう思った時だった。

 

 

突然、足元に熱さを感じそちらに目を向けた。

 

 

オレンジ色の光が死の周りに燈っている。

 

 

なんだこれは?!

 

 

――熱い!

 

 

足の裏からふくらはぎを包む激痛を伴う熱。

 

 

それを感じながら私は強烈に想った。

 

 

――生きている! 私は生きているぞ!

 

 

この痛み、オレンジの光、間違いなく私は生きている!

 

 

オレンジの光はどうやら炎のようだ。

 

 

つまり私は焼かれている。

 

 

焼かれることで生きていることを実感しているのだ!

 

 

炎が上がってくるたびに、ぼんやりと照らされるそれがなんなのであるかがよく分かった。

 

 

狭い狭い箱。四方の箱に私は入れられていたのだ。

 

 

つまり……これは棺桶で、私は焼却炉で焼かれているらしかった。

 

 

「生きている! 熱い! 痛い! 怖い! でも、生きている!」

 

 

 

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